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第290話 

「行くわ」と若子はためらわずに答えた。「会社の住所を送ってもらえる?今すぐ車で向かうから、会社で会いましょう」

「いや、一緒に行きましょう」遠藤花は提案した。「今はあなた、赤ちゃんを抱えてるんだし、まずは赤ちゃんの安全が大事よ」

若子は少し心が落ち着かず、不安な気持ちでいっぱいだった。

この状態で運転するのは確かに無理があるかもと思い、

お腹に手を当てて軽く撫でながら「わかったわ。じゃあ住所を送るから、お願いするわね」と答えた。

......

それから30分も経たないうちに、赤いスポーツカーが彼女の住まいの前に停まった。

遠藤花は青のファッショナブルなキャミソールのロングドレスに身を包み、髪を下ろし、クールなサングラスをかけている。

その姿からは、美しさと裕福さが漂い、どこか豪快な雰囲気さえ感じられた。

一方の若子は、ベージュのリネンシャツにデニムパンツ、白いスニーカーを履き、高めのポニーテールでまとめた、素朴で清楚なスタイル。まるで青春のエネルギーに満ちた高校生のようだった。

しかし、遠藤花の華やかさの隣に並んでも、若子の清々しい雰囲気は一歩も引けを取らなかった。

二人はそれぞれ異なる美しさを持っていた。

遠藤花はふと、若子の姿がどこか心地よく見えることに気づいた。彼女はとても綺麗だが、その美しさには一切の攻撃性がなく、柔和で温かみがあり、まるで頼れるお姉さんのような雰囲気が漂っている。

見ているだけで不思議と安心感を感じる、そんな魅力があった。

だからこそ、兄が彼女をこれほどまでに好きなのも理解できる。

遠藤花は親しげに若子の肩を抱き、「さあ、行こう!」と笑顔で誘った。

若子は、遠藤花が乗ってきた真っ赤なスポーツカーを見て、少し驚いたように口元を緩めた。「これって……ちょっと派手すぎじゃない?」

「何言ってるの、これは私の中で一番控えめな車よ」と遠藤花は気にせず答えた。

「これが控えめ?」

若子は信じられない様子で言った。こんなに真っ赤な車が控えめだなんて、他の車は一体どれだけ派手なのだろうか、と想像してしまった。

「さあ、急いで乗ろうよ。兄がどんな状態なのか見に行かなくちゃ。私も心配で仕方ないんだ」遠藤花はサングラスを外し、瞳には本物の心配が浮かんでいた。

花の潤んだ瞳に見つめられて、若子は「わかった、急ぎましょう」と
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